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企画の成り立ち
約1年半前、恩蔵絢子さんが目を輝かせながら、こんな出来事を語ってくれました。
「ポーランドで開かれた認知症の国際会議で丹野智文さんと偶然再会し、食事をご一緒したんです。そこで“進行”の話になって、みんなが当たり前のように『進行』と言っているものの中に、介護者のかかわりや環境の影響で“進んだように見えているだけ”のことや、そもそも『それは本当に認知症の進行なのか?』と疑うべきことがたくさんある、という話で大いに盛り上がりました。帰国したら、きちんと話し合おう、と約束して食事を終えたんです」
その瞬間、私は直感しました。「これは、読者に届けるべき対話だ!」。思わず口にしたのは、「面白そう! その対話を本にしませんか?」という言葉でした。
「進行」をめぐる違和感から始まった対話
恩蔵さんは、アルツハイマー型認知症のお母様を介護する中で、「母には最期まで豊かな感情があったのに、なぜ“進行した”と言われるのか。進行とは何か。家族として、もっとよい接し方はなかったのか」と自問し続けてきました。
一方で、若年性アルツハイマー型認知症の当事者であり、800人以上の当事者と対話してきた丹野さんは、「進行」と呼ばれる変化の中に、周囲のかかわりによって生まれる「本人のあきらめ」や「ストレス反応」が紛れ込んでいるのではないか、と疑問を抱いていました。
立場を越えて、本音で向き合う
「当事者」と「家族介護者」は、しばしば“水と油”にたとえられます。認知症になってもそれまでと変わらず自由に生きたい当事者。安全や心配からやってあげたり、閉じ込める方向でかかわる家族。
本書は、真反対の立場の2人が真正面から向き合い、時にぶつかり合いながらも、本音と科学で「進行」の実像を精査した記録です。対話が成立したのは、恩蔵さんが家族介護者であると同時に脳科学者として、感情と客観性の両方で当事者の言葉を受け止めたからにほかなりません。
読後に手に入るもの
・「進行」を遅らせる暮らしの工夫と、逆に進行を早めてしまう関わりのサイン
・当事者が本当に望んでいることを見抜くヒント
・不安を軽くし、重度になる前に備えるための具体策
・平均値では捉えきれない個別性に光を当てる、脳科学の視点
それは、当事者が認知症と共に幸せに生きるための実践的な手引きであり、家族や支援者にとっての心強い羅針盤でもあります。
新しい認知症観を、次の常識へ
本書が描き出すのは、認知症になっても最期まで自分らしく生きるという新しい認知症観です。
財布とスマホを持ち、どこにでも行き、やりたいことをやる。家族はそれを応援する「安全基地」となる。
認知症になって人生をあきらめることをやめる。環境やかかわりで、できることは増やせる——その確信を、対話を通じてつかみ取っていきます。
一人でも多くの方に、この視点を手にしてほしい。恐れから始まるケアではなく、希望を育てるケアへ。そんな思いで、この一冊を世に送り出します。
著者より一言
【丹野智文】
私はずっと「認知症の進行ってなんだろう?」と、モヤモヤしていました。環境によって変わるのではないか? 仲間たちの姿を見ていても、これは本当に病気の進行なのか、それとも周囲の理解や環境が悪くて、本人が何かをあきらめてしまった結果なのではないかと…。けれど、たくさんの当事者と出会い、語り合ってきた中で感じていた違和感。それを恩蔵さんと話したとき、私は深く共感しました。「これは一緒に伝えていきたい」と、心から思った瞬間でした。
【恩蔵絢子】
私は家族としての経験を正直にお話しながら、脳科学者として、認知症を理由に新しい挑戦をあきらめていらっしゃる方々に、認知症になっても残るさまざまな脳機能について話しました。この対談により、認知症のことがクリアに見えるようになり、もしも私たちの常識の中に間違いがあるならそれが減り、工夫できることがあるならそれが増え、みんなの心の中に希望が生まれてきたら、こんなに嬉しいことはありません。