幼児教育や保育をするうえで、大切なこととは何でしょうか?
さまざまな考え方があると思いますが、近年の考え方でいえば、子ども主体であることや、環境を通した教育・保育を行うこと、また、非認知能力を育むことも挙げられるかと思います。安心できる安全な環境の中で楽しく毎日を過ごすこと、それも大切なことの一つだと思います。
「愛と知の循環」とは何か

無藤隆先生がたどり着いた 幼児教育・保育で大切なこと
子どもたちの姿から生まれた理論
長年、保育の研究・施策に携わってきた無藤隆先生(白梅学園大学名誉教授)は、現場での実践の観察を研究と並行して行ってきました。そして、実践での子どもたちの姿から、幼児教育・保育の大切なものを突き詰めた核心として、「愛と知の循環」という理論を見出しました。
「愛」だなんて唐突なことを…という印象を受けるかもしれませんが、この「愛」は養育者との間の「愛着」や「愛情」のことではなくて、「世界への愛」のことを指しています。もう少し正確に言うと「世界を愛すること」だと無藤先生はおっしゃっています。
「愛と知が循環する」とは、ヒトが世界を愛し、また、愛するに足るところだと捉え、一つの物事を好きになる、もっと知りたくなる、知ったうえでさらに好きになって、関連する別の対象へも愛と知が広がって…スパイラルのように、その人にとっての世界が広がっていくことだといえると思います。
「愛」だなんて唐突なことを…という印象を受けるかもしれませんが、この「愛」は養育者との間の「愛着」や「愛情」のことではなくて、「世界への愛」のことを指しています。もう少し正確に言うと「世界を愛すること」だと無藤先生はおっしゃっています。
「愛と知が循環する」とは、ヒトが世界を愛し、また、愛するに足るところだと捉え、一つの物事を好きになる、もっと知りたくなる、知ったうえでさらに好きになって、関連する別の対象へも愛と知が広がって…スパイラルのように、その人にとっての世界が広がっていくことだといえると思います。
たとえば、「愛と知の循環」とは
わかりやすく大人の例でいえば、最近、私の同僚が、コーヒー好きが高じて職場の仲間に向けて詳しいコーヒーについての資料を作ってレクチャーをしてくれたのですが、コーヒー豆の種類や味、淹れ方、楽しみ方から入って、しだいに、産地の国・地域、地理や歴史、気候変動、植物学、栽培法や加工法、経済格差やフェアトレード、労働者の人権などなど…どんどん興味が広がり、深まり、コーヒーを入り口にして世界が見えてきたと言います。…みごとに愛と知が循環していると思います。
子どもの場合はどうでしょうか。私自身の例ですが、自分の「愛と知の循環」をブーストして(押し上げて)くれた瞬間の思い出がいくつかあります。小学3年生のときに、伯母が『星の一生』(藤井旭著、あかね書房)という科学図書をプレゼントしてくれて、一気にその本の内容を飲み込んで、にわか「天文少女」になりました。小学4年生のときはまんがの『ことわざ辞典』(詳細は忘れました)をプレゼントしてくれて、にわか「ことわざ博士」になります。もちろん、そのあと周りの子どもたちもキャッチアップしてくるので、私はすぐに「凡人」になるわけですが、一つのことに夢中になる時間を持てたことは、その後の力になったと思います。
また、『星の一生』を読む前に、幼児期から加古里子さんの科学絵本を読んだり、タンポポなどの植物の秘密やら、さまざまな生き物の生態を学んだりしていて、そういったレディネス(準備性)があることを、その伯母は感じ取っていたのだと思います(伯母は保育士ではなく看護師でしたが…)。
子どもの場合はどうでしょうか。私自身の例ですが、自分の「愛と知の循環」をブーストして(押し上げて)くれた瞬間の思い出がいくつかあります。小学3年生のときに、伯母が『星の一生』(藤井旭著、あかね書房)という科学図書をプレゼントしてくれて、一気にその本の内容を飲み込んで、にわか「天文少女」になりました。小学4年生のときはまんがの『ことわざ辞典』(詳細は忘れました)をプレゼントしてくれて、にわか「ことわざ博士」になります。もちろん、そのあと周りの子どもたちもキャッチアップしてくるので、私はすぐに「凡人」になるわけですが、一つのことに夢中になる時間を持てたことは、その後の力になったと思います。
また、『星の一生』を読む前に、幼児期から加古里子さんの科学絵本を読んだり、タンポポなどの植物の秘密やら、さまざまな生き物の生態を学んだりしていて、そういったレディネス(準備性)があることを、その伯母は感じ取っていたのだと思います(伯母は保育士ではなく看護師でしたが…)。
子どもが世界と出会う場をつくる
幼稚園や保育所の役割は、現状の日本においては、「子どもに何かを教え込むこと」ではありません。「愛と知の循環」という視点で考えると、教育・保育の場は、子どもたちが世界と出会う場だといえます。そして、保育者はコーディネーターであり、インタープリター(解説者)であり、インストラクターの役割を担っているということができるかもしれません。
保育者の専門性のひとつとして、子どものレディネスをどう汲み取り、次にどう動くか?を組み立てることが挙げられます。環境を通した教育・保育をするときに、昨日までの子どもたちの積み重ねと、今日・明日への期待、近い将来に起こりうる興味関心、活動の発展や成長を見通し、環境(物・人)を設定したり、必要があれば直接子どもに言葉をかけたり、動き方を見せたりすることが求められるかもしれません。
具体的なエピソードは、書籍『ときがたり 無藤隆の「愛と知の循環」――生成し、創発する保育をめざして』(2025年12月刊、無藤隆・矢藤誠慈郎・伊藤理絵=著)をぜひお読みいただきたいと思いますが、例えば、未就学の子どもたちが大縄跳びを体験するとき、うまくいく子もいれば、そうでない子もいます。うまくできない子に対して「つまらないけど頑張ろうね」ではなく、「面白いから、もっとやってみよう」へもっていく、コツがつかめるように工夫を上手にできる保育者のお話が出てきます。その「うまいことやる」「面白くなるようにする」工夫が、幼児教育・保育の専門性の一つだといえると思います。
そして、教育や保育がうまくいっているのかどうかを見る基準も、「愛と知の循環」という視点から見れば、「上手に大縄跳びを飛べるようになること」ではなく、「子どもが面白さを発見し、目を輝かせて何度もやってみようとすること」へと、おのずとなるのではないでしょうか。
保育者の専門性のひとつとして、子どものレディネスをどう汲み取り、次にどう動くか?を組み立てることが挙げられます。環境を通した教育・保育をするときに、昨日までの子どもたちの積み重ねと、今日・明日への期待、近い将来に起こりうる興味関心、活動の発展や成長を見通し、環境(物・人)を設定したり、必要があれば直接子どもに言葉をかけたり、動き方を見せたりすることが求められるかもしれません。
具体的なエピソードは、書籍『ときがたり 無藤隆の「愛と知の循環」――生成し、創発する保育をめざして』(2025年12月刊、無藤隆・矢藤誠慈郎・伊藤理絵=著)をぜひお読みいただきたいと思いますが、例えば、未就学の子どもたちが大縄跳びを体験するとき、うまくいく子もいれば、そうでない子もいます。うまくできない子に対して「つまらないけど頑張ろうね」ではなく、「面白いから、もっとやってみよう」へもっていく、コツがつかめるように工夫を上手にできる保育者のお話が出てきます。その「うまいことやる」「面白くなるようにする」工夫が、幼児教育・保育の専門性の一つだといえると思います。
そして、教育や保育がうまくいっているのかどうかを見る基準も、「愛と知の循環」という視点から見れば、「上手に大縄跳びを飛べるようになること」ではなく、「子どもが面白さを発見し、目を輝かせて何度もやってみようとすること」へと、おのずとなるのではないでしょうか。
幼稚園教育要領・保育所保育指針に込められた理論や思想
これからの幼児教育や保育の在り方・進め方については、現在、幼稚園教育要領や保育所保育指針の改訂議論が文部科学省やこども家庭庁で始まっています。無藤隆先生は、これまでの要領・指針の改訂議論に主要メンバーとして三度、関わってこられました。その要領・指針の中には、「誰それの〇〇理論」などのようなはっきりした根拠などは一切書かれていませんが、もちろん、これまでの幼児教育、発達心理学、認知心理学などの研究の成果や、主に欧米の教育や人権をめぐる歴史や議論、哲学やアートの思想など、さまざまな背景や根拠をふまえて、要領・指針が作られ、見直されてきていることは事実です。日本の幼児教育や保育も、世界の情勢や価値観の変化と無縁ではなく、無藤先生をはじめとした先人の先生方が、世界と日本の教育・保育をつないできました。『ときがたり 無藤隆の「愛と知の循環」――生成し、創発する保育をめざして』では、無藤先生の頭の中にある古今東西の理論や、胸中にある思いも知ることができます。
本書では、矢藤誠慈郎先生(和洋女子大学教授)と伊藤理絵先生(常葉大学准教授)も加わり、無藤先生の「愛と知の循環」について、それぞれに読み解き、関心のある分野についての考えを展開しています。お二人の先生とも保育研究に携わる研究者ですが、あえて読者の立場となり(ただし、もちろん保育のことはよくお分かりです)、その代表として、「愛と知の循環」の理論の特徴を読み解き、発展させる議論をしていただきました。
この本は、「読んだら終わり」ではなく、読んだ方がご自身のフィールドで感じていることや経験を踏まえて、次の循環へと一歩踏み出すこと、それらの輪が重なり合って、次の時代への教育・保育へとつながることを期待しています。巻末に「愛と知の循環」読み解きのための参考文献や、保育者向けの参考図書がまとめられています。そちらもぜひ見ていただき、活用していただきたいと思います。
この本は、「読んだら終わり」ではなく、読んだ方がご自身のフィールドで感じていることや経験を踏まえて、次の循環へと一歩踏み出すこと、それらの輪が重なり合って、次の時代への教育・保育へとつながることを期待しています。巻末に「愛と知の循環」読み解きのための参考文献や、保育者向けの参考図書がまとめられています。そちらもぜひ見ていただき、活用していただきたいと思います。



