『エビデンスに基づく呼吸器看護ケア関連図 改訂版』出版記念「編者」インタビュー(後編)

後編では、呼吸器疾患を持つ高齢者の特徴と看護、本書の読者へのメッセージを述べていただきました。
呼吸器疾患をもつ高齢者の看護について
――呼吸器疾患をもつ患者の特徴と、看護の特徴をざっくり挙げていただけますか。
橋野先生:そうですね。呼吸器の患者さんは、高齢の方が多い印象です。COPDなどは長期的な喫煙や空気汚染などの暴露により発症するので、必然的に高齢の方の発症が多いです。逆に喘息や間質性肺炎などは、子どもさんや働き盛りの中年の方でも関わることがあります。
高齢の方は徐々に体の機能や体力・筋力が衰えていきますので、少しの労作でも、「息が苦しい」という理由で動かなくなってしまいます。最小限の労力で身の回りのことを済ませようとする傾向がとても強くなります。
だから、一見するとベッド周囲に物が散乱しているんですが、彼らにとってはそれが「息苦しさへの対処行動」なんです。そこを安易に片づけさせない、というのはポイントの一つです。
とはいえ、高齢者が自室で過ごす時間やベッド上での時間が長くなると、フレイルや廃用症候群を誘発しやすい。
だから、「息が苦しい」思いを抱えながらでも実行できる運動・活動の方法を一緒に探して、その人の生活に落とし込む必要があります。
あとは、呼吸困難や咳や痰といった呼吸器症状に鈍感になりがちであることにも注意が必要です。息苦しさが加齢によるもの、痰や咳は風邪を引いたと思われていることもあります。よく話を聞いて、体を見て、病気の悪化かどうかを見極める必要があります。
ここが高齢の呼吸器患者さんの看護の特徴かなと思います。
――高齢者の多疾患併存が多いといわれてますね。
橋野先生:もう一つの特徴として高齢者のCOPDなどは単独疾患ではなく、間質性肺炎や肺がんの併存、さらに糖尿病など他領域の合併が多いです。その場合、「治療方針が相反する」ものであったりします。
例えばCOPDなどの呼吸器疾患は、呼吸に消費されるエネルギーが大きいので、エネルギーをしっかり確保したい(痩せさせない)が、糖尿病では活動量に見合ったカロリー制限が必要となります。
このジレンマをどう解くかはケースバイケースです。
糖尿病の重症度、透析の有無、食事量や分食の可能性などを踏まえ、時に腎臓内科や代謝内科と連携し、呼吸器内科医と相談しながら看護師が連携して、最適な食事指導や生活調整を行います。
看護だけでは完結しないので、看護師がハブとなって専門医と患者・家族をつなぐことが重要です。
急性期から在宅まで:機器の進歩と選択
――呼吸器の治療に関するデバイスについては進歩したのですか?
橋野先生:今回の改訂版の中では、「高流量鼻カニュラ酸素療法(ネーザルハイフロー)」など急性期のデバイスについても記載しています。10年ほど前から使用されるようになりましたが、浸透はここ数年で進みました。
これらのデバイスの使用は必ずしも急性期だけではなく、最近はネーザルハイフローも在宅で使う症例が出てきています。
例えば、間質性肺炎の患者さんは、ほんの少し動いただけでSpO2が70~80台まで一気に下がることがあります。なので、自宅の酸素濃縮器1台が酸素流量7Lまでなので、2台設置して15Lでトイレに行けるように、調整をしたこともあります。
ネーザルハイフローなら最大毎分60Lの高流量が可能で挿管せずに酸素化が図れるという意味で、生活の選択肢が広がることもあります。
一般的には、鼻カニュラ→マスク(リザーバーマスク等)→ネーザルハイフロー→NIV(非侵襲的陽圧換気)→人工呼吸器、と重症度、酸素化の程度に合わせて選択されていきます。
NIVは口と鼻を大きく覆うので食事や飲水が難しくなることがありますが、ネーザルハイフローは口が自由なので大量酸素でもQOLが保ちやすい。
口腔ケアもできますし、誤嚥性肺炎などの感染予防にも寄与します。
コロナとACP、チーム医療の進化
――前回(初版)と違う大きな変化は、コロナ(COVID-19)とACP(アドバンス・ケア・プランニング)ですね。
橋野先生:2019年からパンデミックを起こしたCOVID-19は、現在はインフルエンザと同様の対応となりましたが、当時は様々な情報が錯綜し医療者もそれに振り回されていました。改訂版の執筆にとりかかったのは、緊急事態宣言が解除される頃でしたので、現時点でどういったことがわかっているのか、などをお伝えできればという思いがありました。
また、ACPについては、2024年度神慮報酬改訂から、意思決定支援の基準が設けられ、各病院でも原則、「人生の最終段階で受ける医療」の意思を明確するように求められています。
呼吸器の患者さんは、最終的に「人工呼吸器をつけるかどうか」の選択に直面することがあり、本人の希望と異なる形で装着されてしまう事例も現場では起こってします。
だから、事前にどう過ごしたいかを話し合っておく意義は非常に高いと考えます。
患者さんに関わる全ての医療者が話し合う必要がありますが、その調整は看護師が適していると思っています。
看護師は看護的な視点から患者さんの希望や意見を代弁し、チームに伝えるという役割が以前より明確になってきました。
本書は呼吸器看護について網羅しました!
――最後に本書の読者へのメッセージをお願いいたします。
橋野先生:この本の特徴ですが、最新ガイドラインに準拠して治療領域までを記載しているので、各ガイドラインを逐一見なくても一定の範囲が本書で網羅しています。
さらに、「呼吸困難がどの経路で出現しているのか」「呼吸機能がどこでどう低下しているのか」を、関連図で原因から病態、臨床症状まで追える構成にしています。疾患理解が深まれば、どんな看護をすべきかが自然と見えてきます。
読者へのメッセージとしては、「呼吸機能を正しく評価する」ことの重要性を伝えたいです。
息が苦しいから休めばいい、酸素を吸わせればいい——それだけではない。
治療や病態の変化により生じる症状には対応可能な戦略があります。その理解を前提に、患者さんへケアを提供してほしいと思います。
【この記事を監修した人】
橋野明香
熊本大学大学院生命科学研究部助教。慢性疾患看護専門看護師。
国家公務員共済連合組合吉島病院、広島鉄道病院、大阪鉄道病院、広島大学大学院医系科学研究科、周南公立大学人間健康科学部看護学科設置室などを経て現職。
【イラスト】
タナカユリ
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