『エビデンスに基づく呼吸器看護ケア関連図 改訂版』出版記念「編者」インタビュー(前編)

その後、呼吸器領域のエビデンスとガイドラインは大きく更新され、本改訂版では、その最新動向を反映して実践に直結する内容へ磨き上げました。
看護学生や新人・転属看護師にも読みやすいよう、呼吸器の解剖生理、フィジカルアセスメント、疾患別の病態と機能変化を関連図と解説で整理しています。
このインタビューでは、編者を担当された橋野明香先生に、改訂の意図、学び方のコツ、臨床での「見立てから介入」へのつなげ方を端的に解説していただきました。
看護のエビデンスを示すこと
――このたびは『エビデンスに基づく呼吸器看護ケア関連図 改訂版』の編集をお引き受けいただき、ありがとうございました。
橋野先生:こちらこそ、ありがとうございます。すごく時間がかかってしまって、申し訳ありません。改訂版とはいえ、こういう書籍を作るのは大変ですね。
――出版社としても、それは十分感じました。編者や執筆者として、どのあたりが一番大変でしたでしょうか。
橋野先生:看護のエビデンスを示すことです。様々な疾患のガイドラインは、診断や治療が中心で、看護に直結する項目がないことも多くあります。
そこから「運動はこのくらい」「食事はこのくらい」というヒントを読み解いて、看護として何ができるかを記載していくのですが、ガイドラインによってはそういう項目自体がない場合もあります。
自分たちが行っていた看護のエビデンスを示すのに、看護研究の論文を探すしかありません。
看護のガイドラインがほとんどないのは、看護介入は医師による治療の影響や患者さん自身の工夫、その他の要因が関わって、効果を純粋に証明しにくい、いわゆるバイアスが大きいからだと思います。
例えば呼吸器疾患の患者さんで息苦しさが改善したとして、それは、医師による処方変更の効果なのか、理学療法士とリハビリがうまく進められたからなのか、薬剤師さんが吸入薬の手技のエラーに気が付き再指導してくれたからなのか、看護師が生活環境の見直しをしてADL指導を行ったからなのか、どこに影響されたのかを切り分けるのが難しい。
今回も、医師のガイドラインを「看護のレベル」に落とし込み、看護学としての根拠につなげるところは本当に大変でした。
病棟体制と呼吸器看護の基本
――まずは学生さんのために、呼吸器関係の病棟体制について教えてください。呼吸器内科と外科は分かれているのでしょうか。
橋野先生:多くの施設では、内科系と外科系で病棟は分かれているところが多いと思います。配属も病院の機能によりますが、どちらかに分かれると思います。
呼吸器外科は手術侵襲が大きく、術後の患者さんの状態管理は呼吸器疾患とはまた別の専門性が必要になります。
――呼吸器看護の特徴・役割を大まかに教えてください。
橋野先生:まず「息が苦しい」という訴えを受け入れ、どういったことが原因で息苦しさが生じているのか理解するところからです。息苦しさを最小限にできれば、患者さんのADLも維持でき、ひいてはQOLも改善します。
入院中は、もちろん治療を中心に療養して頂きますが、その間にも適切な酸素投与を行いながらADLが保てるよう支援する必要があります。
また、酸素飽和度を確認しながら、患者さんが退院後に日常生活を送れるような動作の身につけ方や、生活様式を少しずつ調整することを教育・支援します。
自宅に戻れば自己管理をしなければなりませんので、体調の変化の見方や、変化したときの対処法を、患者さん自身や家族ができるように話します。
必要に応じて訪問看護とも連携し、生活全体の中での呼吸器症状の影響を見ていくのが呼吸器看護の特徴だと思います。
――呼吸器には医療の変化も多い印象ですが、看護の内容も変わりましたか?
橋野先生:初版からの変化で言うと、肺がん領域が大きいと思います。
分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬は初版の頃から少しずつ実施されてきていましたが、今は遺伝子解析を踏まえた治療選択がスタンダードになり、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などの薬剤の種類も増えています。新しい薬剤の使用に従って、副作用への対応、これらの薬剤使用ができない場合の患者さんへのケアなどが変わってきたと思います。
しかし一方でCOPDなどのコモンディジーズは、新しい薬が出ても看護の本質―息苦しさなどへの対応と生活支援―は大きく変わっていないと感じます。
新人・転属ナースが押さえるべき基礎
――新人や転属ナースがまず押さえるべきポイントは何でしょう。
橋野先生:フィジカルアセスメントです。
呼吸音は「胸に当てて呼吸音を聞く」だけでなく、肺区域のどの部位で、どの位相でどんな音がするのか、それが痰の貯留なのか、水が溜まっているのか、病態の推測につながる情報として聞き分ける必要があります。
例えば、痰をしっかり出すには右の中葉に痰がありそうだとわかれば、その部位を上にした体位や呼吸介助が有効になりますし、動作時の酸素低下を防ぐにはこういう工夫が有効、といった具体的な介入に直結します。
今回、冒頭で解剖生理とフィジカルアセスメントを詳しく解説したのは、その土台をしっかり作りたかったからです。
――この本の読み方、学び方について、教えていただけますでしょうか。
橋野先生: まずは構造と機能(解剖生理)を押さえることは基本ですね。次に、実際に患者さんを相手にたくさんフィジカルアセスメントを実践してみます。
そのうえで、それぞれの病気がどの部位にどのように影響し、呼吸機能が低下しているのかをたどり、呼吸困難の原因を見立てて介入につなげる流れが大事です。
――学生さんがやりがちなつまずきはありますか。
橋野先生:関連図は学生さんが演習・実習で書くと思いますが、拝見していると学生さんは事象と事象の間が飛びがちです。
「呼吸困難」→「ADL低下」といきなりADLの低下につなげちゃって、間のプロセスが抜ける。
例えば、患者さんがトイレに行くのに息が苦しいと訴え、尿器を使用しています。これだけだと「呼吸困難」→「ADL低下」なのですが、トイレ動作の立ち上がり時にSpO2が下がるのか、トイレまでの距離を補講する間に下がるのか、下着をおろす動作で息切れが強くなるのか—―そういった具体的な機能低下を観察・聴取して埋めることが必要です。
その間の記述があれば、看護の介入点(途中休憩を挟む、呼吸法で息を吐きながら下着を下す、呼吸を整えるタイミングを作る等)が定まります。
本書の関連図は、病態の原因から細胞レベルの変化、臨床症状まで追える構成にしており、この「飛躍」を埋める助けになるはずです。
看護実践では、患者さんが達成できそうな目標をスモールステップで設定し、少しずつ目標を上げていって、最終的な目標が到達できるように組み立てますよね。
だから、呼吸困難からADL低下までの間のプロセスを観察することは、そのまま小さな目標設定にもつながるんです。 (後編に続く)
【この記事を監修した人】
橋野明香
熊本大学大学院生命科学研究部助教。慢性疾患看護専門看護師。
国家公務員共済連合組合吉島病院、広島鉄道病院、大阪鉄道病院、広島大学大学院医系科学研究科、周南公立大学人間健康科学部看護学科設置室などを経て現職。
【イラスト】
タナカユリ
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